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マツダ中期経営計画アップデートおよび2030経営方針説明会 スピーチ

【代表取締役社長兼CEO 丸本 明】

 みなさん、こんにちは。本日は「マツダ中期経営計画アップデートおよび2030経営方針説明会」にお越しいただき、誠にありがとうございます。2026年3月期までの中期経営計画が進捗する中で、本日はそのアップデートと2030年に向けての経営方針および主要な取り組みなどについて、お話いたします。

 第1章 2030年に向けた経営方針

 私たちを取り巻く社会は、2030年に向けますます大きく変化していきます。現在、グローバリゼーション崩壊の兆候が明らかになり、多極化やブロック経済へと枠組みが変わりつつあります。地政学的リスクが高まり、経済安全保障上の摩擦が生じ、分断と対立が顕在化するなど経営環境への不透明さが増してきています。

 またデジタル技術革新により、私たちの生活は、より便利により快適になっていく一方で、地球温暖化など地球的、社会的な懸念は高まり続けています。そのような中、子供や孫その先の人々から借り受けているこの地球と社会に、責任を持って事業活動を行なっていくことは、企業としての重要な使命となっています。

 大きな転換期にある自動車産業においては、デジタル技術の進化や新たなプレーヤーの参入で、多種多様な商品が導入されています。IoTによりつながることでさまざまな機能やサービスが提供されるようになり、自動車が社会に提供できる価値も今後変化し拡大していきます。

 私たちは、このような社会の変化に技術開発や事業運営を適合させながら、「走る歓び」というブランドエッセンスを磨き、進化させ続けます。人々の日常に運転すること、移動することの感動体験を創造し、誰もが活き活きと暮らす「愉しさ」と「生きる歓び」を提供してまいります。そのために、今後も「ひと中心」の思想のもと、人を研究し続け心も身体も活性化されるものづくり、つながりづくり、ひとづくりにこだわり続けます。

 さて、このような経営環境の変化などを踏まえ、マツダは2030年に向けて3つの経営の基本方針を掲げます。

 まず1つ目は、地域特性と環境ニーズに適した電動化戦略で、地球温暖化抑制という社会課題の解決に貢献することです。

 2つ目は、人を深く知り、人とクルマの関係性を解き明かす研究を進め、安全・安心なクルマ社会の実現に貢献することです。

 3つ目は、ブランド価値経営を貫き、マツダらしい価値をご提供し、お客さまに支持され続けることです。

 基本方針の一つ目である地球温暖化抑制への対応、すなわちカーボンニュートラルや電動化は、個社だけでは対応できない大きな社会課題です。2030年に向かって各国の環境規制動向、社会インフラ整備はもちろんのこと、電力供給基盤、電池技術の進化、電源構成の変化、そして消費者の選択など外部環境の変動要素が大きく経営を取り巻く環境の不確実性は高いと想定しています。

 この不確実な変化の波に私たちは、できる限り柔軟に対応するため、こちらの3つのフェーズに分けて取り組んでまいります。

 第1フェーズは、2024年までの3年間です。このフェーズでは将来の電動化などの対応資源を蓄積しながら、本格的電動化時代に向けた開発・生産領域の技術開発の強化に取り組みます。今までに米国工場、マルチ電動化の技術資産、ラージ商品群などへしっかりと投資してきた資産を最大限活用してビジネスを成長軌道に乗せ、2020年のコロナ禍並みの経済危機にも手許資金で対応できるよう財務基盤を強化していきます。並行して投下する資本の効率性を高める原価低減活動の強化と、サプライチェーンの強靭化に取り組み、環境変化に対する耐性の強い事業構造を構築します。

 次の第2フェーズは、2025-27年です。規制のハードルも上がる電動化へのトランジションのフェーズです。この期間は引き続き内燃機関搭載車で収益を上げ、財務基盤を維持・強化しながら本格的電動化時代への備えを盤石にしていきます。必要となる電池は、市場の需要状況や規制と政策、技術進化の方向性などを考慮に入れ、協業先からの調達を行う目途をつけています。また電池技術については、技術の確立とコスト競争力の確保をはかるべく研究開発・生産技術開発を継続して強化していきます。マルチ電動化技術をさらに磨き、フルに活用しこの期間の後半からバッテリーEV専用車の先行導入を開始します。

 その後の第3フェーズにおいては、バッテリーEV商品を本格導入していきます。本格的な電動化時代に向けて、市場の需要状況と政策、技術進化の方向性が定まってくる状況を見極め電池生産への投資などを視野に入れていきます。

 第2章 未来を拓くための主要な取り組み

 2030年に向け、地球・社会の持続可能性と会社の持続可能性は不可分の関係にあり、事業の取り組みを同期化させていかなければなりません。

 私たちは共創・共生という考え方、つまり『人と共に創る』価値観を大切にしています。他OEM、専門メーカー、異業種といった幅広いパートナーの皆さまと相互理解を深め、信頼関係をつくりwin-winとなる共通の目的、目標の共創を通じて、協業を積極的に推進していきます。その中で新たな技術開発や課題解決のための枠組みを作るとともに、自らの強みの領域にさらに磨きをかけ続けてまいります。常に現実的かつ合理的な考え方に基づき技術開発を進め、今後積極的な対応が必要となるカーボンニュートラルやそれを達成する有力な手段である電動化などへの対応を着実に進めてまいります。

 それでは、今後の4つの主要取り組みについて紹介してまいります。

 取り組み1 カーボンニュートラル

 まずは、カーボンニュートラルに向けた取り組みです。私たちは地球環境を守り持続可能な循環型社会に向け、クルマの『つくる、はこぶ、つかう、もどす』の過程をスコープに、カーボンニュートラルの取り組みを進めます。そのマイルストーンとして、昨年1月に「2050年のカーボンニュートラル」への挑戦を宣言し、今年6月には「2035年にグローバル自社工場のカーボンニュートラル実現」の目標を公表いたしました。

 この2035年の中間目標に向かっては、省エネ、再エネ、カーボンニュートラル燃料活用の3本柱で取り組みを進めてまいります。その際、地域にお住まいの皆さま、地域社会と共生しながら共に持続可能性を考え、実現していく視点を大切にしたいと考えています。

 事業で使用する電力のカーボンニュートラル実現に向けた再生可能エネルギーの利用拡大には、これまでの化石燃料を中心とした大規模な垂直統合型の電力システムだけでなく、小規模で多種多様なシステムが分散している水平分散型の電力システムの進化が不可欠になると考えます。分散化された多様な電源構成をいかに効率的に取りまとめ、柔軟な調整を可能にし持続可能なエコシステムを構築していけるか、ここが成否のカギを握っています。

 そのため現在、電力系統を制御していただいている「発電・送配電・小売り事業者さま」 需要家である弊社のような企業群と行政が一つになり再生可能エネルギーの利用促進に取り組んでいます。その活動の母体となる中国5県での「カーボンニュートラル推進協議会」の活動に、私たちも積極的に携わっており、この地域共生の構想の実現に汗をかき一翼を担ってまいります。

 2050年のカーボンニュートラル実現に向けては、自社に加えサプライチェーンへの対応も必要であり、輸送業者さまやサプライヤーさまと共にCO2排出量を削減する活動を段階的に進めてまいります。国内においては、ムダ・ムラ・ムリを徹底して洗い直しサプライチェーンの構造改革に取り組むほか、カーボンニュートラル燃料の活用拡大を進めてまいります。

 取り組み2 電動化

 2つ目の主要施策は、電動化への取り組みです。原料採掘を含めた「Life Cycle Assessment」の視点で大気中に放出されるCO2の総量を抑制することが、地球温暖化抑制に対する真の意味での地球環境への貢献です。

 2030年頃までのEV時代への移行期間には、内燃機関、電動化技術、代替燃料などさまざまな組み合わせとソリューションを持ち地域の電源事情に応じて、適材適所で提供していく「マルチソリューション」のアプローチが有効と考えています。一方、各国の電動化政策や規制の強化動向を踏まえ、私たちは2030年のグローバルにおけるEV比率の想定を25-40%としています。

 昨年来、規制動向やエネルギー危機、電力不足などさまざまな変動要素が顕在化しています。また、それらの今後の進展は非常に不透明です。規制動向の変化や消費者のニーズ、受容度、社会インフラの開発状況などの今後の変化に柔軟に構えられるよう、冒頭で述べました3つのフェーズに分けステップバイステップでパートナー企業と共に電動化を進めてまいります。

 第1フェーズでは、既存の技術資産である「マルチ電動化技術」をフルに活用して、魅力的な商品を投入し、市場の規制に対応してまいります。先程もお見せした「ビルディングブロック構想」に基づき電動化の技術資産を積み上げ、スモール・ラージ商品群からなる「マルチソリューションスケーラブルアーキテクチャー」の投資を終えつつあります。投資した資産を有効活用し、収益を上げ回収を図りながら新たな資産へ投資をする、このような取り組みを継続してまいります。このフェーズでは、ラージ商品群CX-60に続きCX-70 CX-80 CX-90を投入し、プラグインハイブリッドやディーゼルのマイルドハイブリッドなど環境と走りを両立する商品で収益力を向上させ、さらにバッテリーEV専用車の技術開発を本格化させます。 

 第2フェーズでは、電動化への移行期間における燃費向上によるCO2削減を目指し、これまで積み上げてきた技術資産を有効に使った「新しいハイブリッドシステム」を導入するなどマルチ電動化技術をさらに磨いていきます。電動化が先行する中国市場において、EV専用車を導入するほかグローバルにEVの導入を開始いたします。一方、内燃機関は熱効率のさらなる改善技術の適用や再生可能燃料の実現性に備え、その効率を極限まで進化させていきます。

 加えて電動化の進展に向けて、地元中国地域のお取引先さまと継続的に共存共栄するためには、地場でも電動化技術を育てる必要があると考え、電動駆動ユニットの高効率な生産技術の開発やその生産・供給体制の確立を行うべく地元の取引先企業であるオンドさま、広島アルミニウム工業さま、ヒロテックさまとマツダの4社で合弁会社を設立いたしました。サプライチェーンの階層を浅くし、安定的に競争力のあるユニットを生産できるように取り組みます。

 また、この電動化の時代にも『走る歓び』の価値を進化させ続けるため、電駆の基幹部品であるシリコンカーバイドパワー半導体を含むインバーターの開発については、ロームさま、今仙電機製作所さまと3社共同開発契約を締結し、モーター技術に関しては、富田電機さまと共同開発契約を締結し次世代に向けた電動駆動ユニットの開発を進めてまいります。

 この2つのフェーズを通して「グリーンイノベーション基金事業」に採択された先端電池技術の研究開発を続けながら、電池はパートナー企業からの調達を進めます。今回、既存のパートナー企業に加え、国内で生産予定のEV向けにエンビジョンAESCさまからの調達を新たに合意しました。今後の市場・規制動向や技術進化の方向性を見定めて、必要な手段を順次打ってまいります。

第3フェーズでは、バッテリーEV専用車の本格導入を進めるとともに、外部環境の変化の大きさや自社の財務基盤強化の進捗を踏まえ、電池生産への投資なども視野に入れた本格的電動化に軸足を移してまいります。

 これら3つのフェーズを通じて、地域特性と環境ニーズに適した電動化戦略を着実に進め、地球温暖化抑制という社会課題の解決に貢献してまいります。

 取り組み3 人とITの共創によるマツダ独自の価値創造

 3つ目の取り組みは、人とITの共創によるマツダ独自の価値創造です。これまでマツダは「ひと中心」の思想に基づき、人間の研究を積み重ねて人の五感で感じる「走る歓び」を追求してきました。私たちは人を深く研究し、人体や脳のメカニズムを理解、モデル化することで、人が気持ちよくストレスなく最大のパフォーマンスが発揮でき、ドライバーと同乗者がともに快適に動くことや移動することの楽しみを感じていただける商品へさらに進化させていきたいと考えています。

 その土台は、90年代から継続的に取り組んできた「マツダデジタルイノベーション」です。エンジニアがITを駆使し、技術開発の大幅な効率化に継続的に取り組んできました。それがコンピュータ上で開発を行う「モデルベース開発」などのプロセス革新につながり、革新的なパワートレイン技術や安全技術といった成果となっています。この高効率開発の実現と高い価値創造の両立がマツダ独自の強みです。

 私たちの独自の安全思想「マツダ・プロアクティブ・セーフティ」のもと、今後もIT技術の活用により、人の研究に基づいた高度運転支援技術の開発を継続し、運転者や同乗者はもちろんのこと周囲の人も安全・安心なクルマづくりを進め、2040年を目途に自動車技術で対策が可能なものについては、自社の新車が原因となる「死亡事故ゼロ」を目指してまいります。

 今後も「モデルベース開発」や「モデルベースリサーチ」をプラットフォームにして人の能力を最大限引き出せるよう人間の研究に投資し、広く他の業界や研究機関などと共同研究を進め、人々の日常に運転すること、移動することの感動体験を創造し、誰もが活き活きと暮らす「愉しさ」と「生きる歓び」を提供してまいります。

 取り組み4 原価低減活動とサプライチェーンの強靭化

 4つ目の取り組みは、原価低減活動とサプライチェーンの強靱化です。電動化・カーボンニュートラルをはじめ、世界的なコロナウイルス感染拡大や半導体・物流の逼迫は、我々のこれまでの取り組みを大きく揺さぶる環境変化を引き起こしています。こうした変化に適応していくため、原価低減やサプライチェーンのありかたについて、考え直さざるを得ない状況にあると考えています。原価低減は、従来の商品原価や製造原価だけにとどまらずそのスコープを広く拡大し、バリューチェーンとサプライチェーン全体を鳥瞰し、ムダ・ムラ・ムリを徹底的に取り除く取り組みを通じて、原価の作りこみを行うよう変えていきます。

サプライチェーンについては、材料調達からお客さまへのデリバリーに至るまでのすべての工程における個々の改善にとどまらずモノがよどみなく流れ、しかもそのスピードが最大化される「全体最適の工程」を実現するよう取り組みます。また材料・部品調達の階層を浅くし、種類を産む場所を近場に寄せていくなどの調達構造の変革や汎用性の高い材料や半導体の活用拡大に取り組み、地政学的リスクやコロナウイルス・地震などの外部の環境変化に対する影響についても最小限にとどめてまいります。

 バリューチェーンにおいては、お客さまに共感・満足いただける価値を商品の企画、開発、生産、販売、サービスに至るバリューチェーン全体をスコープに各々の工程の仕事を一括で構想します。企画段階で商品の仕様や種類数を最適化し、アフターサービスにコストが掛かりにくくリサイクルし易いクルマの構造の追求などバリューチェーン全体で固定費負担を抑え、お客さまの期待される価値を実現する工程への再構築を行います。これによりお取引先さまも含めた開発・設備投資の抑制や設備の稼働率の向上、市場でのカスタマーサービスに関連する管理費・在庫・物流費などの費用の抑制ができる強靱な構造を実現していきます。

 これらサプライチェーン、バリューチェーン全体の再構築による原価の作りこみにより、原価低減力と減産抵抗力を強化していきます。

 第3章 2026年/3月期に向けての経営ガイドラインと目標

 最後に中期経営計画最終年度の2026年3月期に向け、経営のガイドラインをお示しします。2022年3月期までは、中期経営計画の足場固めと位置づけ2023年3月期からの本格的成長に向けた準備を計画通り完了させました。今後、米国合弁工場、マルチ電動化技術、ラージ商品群などのこれまでに築いてきた資産を活用して、本格的成長を図るとともに時代の大きな変化に耐えうる「強靭な経営体質の実現」に向けて、2026年3月期まで取り組みを加速していきます。

 2026年3月期に達成を目指す主な財務指標については、経営環境の不透明さと不確実性を鑑み、2020年11月の中期経営計画見直しの際に掲げた目標の達成に注力いたします。具体的には、売上高約4.5兆円、ROS5%以上、ROE10%以上、配当性向30%以上、損益分岐点台数約100万台などです。

 また非財務領域では、自社のサステナビリティ基本方針に基づき「2035年グローバル自社工場のカーボンニュートラル」や2040年の自社の新車が原因となる「死亡事故ゼロ」に向けた取り組みを通じて、持続可能な事業への転換を着実に進めてまいります。特に、地球温暖化抑制への社会的貢献の代表指標であるCO2排出量削減は、会社の中核的な価値であると認識し、さらなる目標ブレークダウンも行いトラッキングしてまいります。

 このような地球・社会の課題解決に貢献し、マツダらしい価値を創造する源泉は、マツダグループの人の力です。労働人口や働き方の変化に対応し、働きやすさと働きがいを徹底追求することにより、従業員一人ひとりが誇りを感じて活き活きと働ける魅力的な会社を実現します。また、企業の成長につながる従業員の能力開発支援を始めとするさまざまな投資を進め、従業員の活躍や成長を後押ししていきます。

 一例として、AIを使いこなせる「デジタル人材」の全社的育成へ投資を行い、企業としてのデジタルリテラシーを高めていきます。2025年までに間接従業員全員がAIやITを使いこなせる一定以上の能力を持てるようにAidemyさまをパートナーとし変革を進めています。すべての領域での仕事の付加価値を再評価し、業務プロセスのモデル化により、2030年には生産性の倍増を実現し捻出したリソースをより付加価値が高くなる仕事にシフトを進め、筋肉質な企業体質を手に入れてまいります。

 本日ご説明しましたマツダの姿を実現するために、グループ従業員、協業パートナーさま お取引先さま、販売会社さまなどと思いを一つにし、あらゆるステークホルダーの皆さまとお客さまを大切に、ブランド価値を向上させ安定的な収益をあげ社会から信頼される企業となれるよう努めてまいります。

 以上、中期経営計画アップデートおよび2030年に向けた経営方針をご説明しました。最後に映像化した”マツダが描く未来への想い”をご覧ください。