皆様こんにちは。本日はお招きいただきありがとうございます。このような機会を与えていただき、たいへん光栄に存じております。
皆様は私のことを最近、皆様のご家庭に入り込んでいる二流の俳優として覚えていらっしゃる方もあるかも知れません。私が出演致しましたこの新しい企業広告は、かなり好意的に受け止められています。最も多いお問い合わせは、バックグラウンドミュージックに使われている音楽についてのお問い合わせです。しかし、ある学校の先生から受けた非常にうれしい反響をご紹介します。その先生は私の3つの約束に非常に感銘を受け、これを生徒指導の際の教育指針として使いたいと知らせてくれました。
私がコマーシャルで言っている約束は次のようなものです。「私たちは3つのことを捨てます。ありきたりな常識、意味のないルール、たいくつな普通。なぜなら、革新的な考え方をお客様にお届けしたいからです。いつもあなたの心を動かしたい」。
ところで、私が企業広告に登場したことはマツダにとって特別重要な意味があります。この広告は、マツダの新しいブランド戦略のスタート点に当たるからです。私たちのブランド戦略について簡単にご紹介し、なぜブランド戦略がマツダにとって重要かをご説明致します。
これまでの顧客調査では、市場においてマツダは明快で特色のあるブランドイメージが欠けていることを示していました。今日、ブランドのポジショニングを明確に位置付けることで、公式に私たちの拠り所を規定しました。
当社はブランド戦略を経営戦略の中核に据えます。全ての企業活動−つまり、開発、生産、販売、サービスの全領域−をお客様の視点で考え行動することを目指しています。ここで強調したいのは、当社のブランド戦略は単なるトレードマークではないということです。グローバルな企業活動であり、当社の成長戦略の重要な柱であるということです。この戦略を通して、顧客満足度を高め、利益を生むブランドの価値を上げ、世界市場の競争で勝ち残っていくことを目指しています。
この戦略は、マツダブランドの「人格(Personality)」と「商品特性(Product attributes)」に関して一つのメッセージで統合するものです。
世界の全市場において共通に、マツダの人格は「Stylish-センスの良い」「Insightful-創意に富む」「Spirited-はつらつとした」の3つです。「Stylish-センスの良い」とは、自信に満ちて特色があり、注目を強要するのでなく自ずと注目を集めることを目指します。「Insightful-創意に富む」とは、顧客ニーズと価値を深く理解し、創造的で革新的なアプローチを取ることです。「Spirited-はつらつとした」とは、熱狂的で、表現力に富み、若々しいということです。人間のDNAと同様、これらの基本的な特性がマツダを他の競合相手に対してユニークな存在としてくれるものです。
商品の面からは、私たちはお客様にマツダのグローバルな商品属性を認識してもらいたいと考えています。その商品属性は、「Distinctive
Design-際立つデザイン」「Exceptional Functionality-抜群の機能性」「Responsive Handling
& Performance-反応の優れたハンドリングと性能」です。
簡単に言えば、目指すべき到達点は、当社の全ての商品とサービスを通してこうしたブランドDNAをお届けし、そのことによりマツダに対する満足とロイヤリティにつながるお客様との「結びつき」を実現することです。ブランドDNAは新型プレマシーや今後の新商品だけではなく、企業全体のコミュニケーションの中にも織り込んでいく予定です。
自動車産業における厳しいグローバル競争の中で、マツダのプレゼンスを強め、フォードグループの中の他のブランドも含め、他の全ての競合相手に対してマツダブランドを明確で特色のあるものとすることを約束します。
以上が、当社がブランド戦略を重要な資産、資源として位置付ける根拠です。
私がマツダの社長に就任して以来18ヶ月間、当社は「ありきたりの常識」、「意味のないルール」、「たいくつな普通」を捨てることに努力し、そしてポジティヴな変革と前進を目指して来ました。しかしなお、まだ大胆に改善しなければならない領域はたくさんあります。
最近の当社の変革と前進についてご紹介したいと思います。
2週間前に公表したように、連結決算、単独決算において、当社は過去14年間で最高の当期利益を達成しました。連結、単独のいずれも1985年の過去最高の数値を数億円下回っただけでした。また、連結決算については5年連続の赤字計上を脱し、6年ぶりに復配することを発表しました。
極めて厳しい経営環境の中で、日本市場における当社のマーケットシェアは2年連続上昇しました。具体的には、1998年3月期は0.3%ポイント上昇し5.1%に、1999年3月期は0.3%ポイント上昇し5.4%になりました。1998年暦年の欧州全体の販売は前年に対して13.6%上昇し、引き続き好調を維持しています。今年4月までの結果は前年比20%の上昇となっています。アメリカにおいては1998年暦年で前年比8.4%向上しました。これは3年間、前年比減が続いた後の好転です。重要なことは欧州のビジネスとアメリカのビジネスが利益を回復したということであり、これはリストラを行い、販売台数を増加させた結果です。
今年1月以来、当社の上位200人の幹部社員が、利益を生み出すためのキャッシュフロープロジェクトを組み、9月までに1000億円のキャッシュ・フローを生み出すことを目指しています。この努力の結果の一部は昨年度決算の中のキャッシュ・フローの数字の中に既に一部表われています。国内販売会社対する劣後ローンがなければ、連結決算ベースのキャッシャフローは1200億円となったはずです。これは、大変大きな額であり、過去最高の数字となったはずです。この活動は当社の有利子負債を削減しバランスシートを健全なものに回復するために続けるつもりです。
当社の財務的な長期目標は連結、単独ベースともに純有利子負債資本比率を50%にすることと、売上高利益率を5%にすることです。
国内販売会社の組織を強化することは、当社の中核の事業を好転させるための対策の更なるステップです。1997年、私がマツダに着任した際、国内販売の建て直しが私の最優先課題になるであろうことが明白でした。そして、効率化と経営リストラのため素早い行動を取りました。
経営効率改善のためにとった戦略の一つは、当社が「ワン・オペレーション」ディーラー・プログラムと呼んでいるものです。各都道府県毎に販売会社の主要な機能−例えば、経営者、管理部門−を一つに統合し、コスト構造と効率を改善し、採算性の低い拠点を閉鎖するというものです。今年5月1日付で、このプログラムは16の都道府県、40販売会社で実施しています。このプログラムに参画したある販売会社の社長は、以前に比べ在庫は25%低減し、拠点は15%削減したが、販売台数は維持した、ということを言っています。このプログラムをもっと早く導入すべきであったとさえ語っています。
財務体質はかなり改善されているものの、販売会社はいまだに80年代の拡大路線の遺産である膨大な債務に苦しんでいます。
国内販売会社の体制を強化する戦略と呼応して、今年の年初に総額1280億円の劣後ローンというかたちで販売会社の負債の負担を軽くすることを決定しました。この貸付けにより、販売会社は総額1000億円の銀行借入れを帳簿から消し、結果として支払い余力を持つことで本来のプライオリティナンバーワンであるマツダ車の販売をすること、素晴らしいサービスをお客様に提供すること、そして営業利益を出すことに集中出来るからです。
これらの施策は、マツダの財務体質強化や問題のある領域をタイムリーに解決してゆき、業績を改善してゆく強い姿勢を示すものです。
ところで、マツダの全従業員の献身的な働きなしに成功は達成出来ません。まさにこの点こそ、更なる進歩と変革の土台となるものです。人材こそが、企業にとって最も重要な財産です。私が社長に就任して初めてマツダの全従業員にスピーチした時、「人の成功」の重要性について強調しました。
当社は、全ての従業員が、その能力を最大限発揮出来る環境を作ろうと努力しています。企業文化の革新とともに、人事制度も改革しつつあります。しかし、正直に申し上げて、これについてはまだ着手したばかりです。社員個人個人の会社に対する業績への貢献度をもっと明確に評価し、より大きな責任を担うことが出来る能力に対して報いることが出来るようにするにはもっと多くの変革が必要です。
また、私たちは優れた研修制度を導入し、若い社員の育成を図り志気を高める努力をしています。私は2−3週間に1回、若い社員のグループとインフォーマルな懇談会を開いています。先日、私は入社2年目の社員16人と1時間半話しをしました。私どもの管理職は、当社が非常に急速に変化しているということを申し上げるかも知れませんが、これらの若い社員は「変化のペースはゆるやか過ぎる」と言っています。私はこの発言には驚きません。日本に来る前、世界各国で語りあったフォードの若い社員も同じように言っていたからです。
マツダは、21世紀の要求に応えられるような新しい人事制度の改革を加速することが重要な課題の一つととらえています。2年前、当社は人事制度を見直し、一貫して高い能力を示し素晴らしい実績を達成した人は、入社10年以内に管理職に登用されるようにしました。
つい最近、当社は6月22日付けで発効する新役員候補を発表しました。これにはマツダの歴史始まって以来最も若い41歳の取締役候補が含まれています。おそらく、日本の主要上場企業で創始者一族以外の役員としては最も若い取締役の一人だと思います。今後、数ヶ月以内に私たちは新しい従業員教育制度を導入します。これは全ての管理、監督者が基本的なビジネススキルを習得出来るようにするものです。
大型合併や国際的な戦略提携は、今やビジネスの世界ではごく普通のこととなりました。マツダはメディアから、東洋と西洋が融合している国際提携の成功事例としてよく引き合いに出されます。このことを私たちのデザイン・フィロソフィーの中の言葉で表現すれば、「コントラスト・イン・ハーモニー」(対比の中の調和)です。
フォードとの長い提携関係の歴史の中で、両社が良い点を融合し新しい価値を作り出してきました。重要なことは、両社とも互いに学んでいるということです。フォードとの資本提携関係は今年の秋で20周年を迎えます。これまで、私たちは相乗効果(シナジー)を最大に活かすことによってお互いの企業力をより強化して来ました。プラット・フォーム、パワー・トレインを含む商品開発を広く統合し、生産、流通や、環境、安全の技術開発領域でも、両社にとってあらゆるメリットの可能性を追求しています。
ところで、今日はマツダとフォードにとって特別な日です。なぜなら、数時間前、私たちはアメリカ、ミシガン州の両社の合弁生産会社であるオートアライアンス・インターナショナル
Inc.で200万台目の車の生産を祝ったからです。この工場では1987年以来、マツダとフォードの両社が各々の優れたアイデアややり方を採り入れ品質の高い車を生産しています。
私たちは、それぞれがアイデンティティを保ちながら全く別々のユニークな存在として存続しつつ、一方で戦略的協力関係を更に強化しようとしています。
私たちは、毎日1億円以上の損失を出していた1994年から1995年頃の暗い日々から長い道程を経て、やっとここまで立ち直りました。
今日のビジネス環境に伴って非常に膨大な課題がありますが、当社は更に前進してゆくと確信しています。
最後にもう一度、本日のご招待と皆様の歓迎に心から感謝申し上げます。
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