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本日は「日本記者クラブ」にお招きいただきありがとうございます。このような機会を与えて頂き、たいへん光栄に存じております。
私がマツダの社長に就任して17ヶ月近くがたちました。本日は、私の個人的な経験について少しお話しし、過去2年間のマツダの変化と将来の展望についてお話ししたいと思います。また、マツダとフォードとの関係についても触れたいと考えています。
私は、1997年11月14日、ヘンリー・ウォレス氏に引き続いて、日本の上場企業の一つ(であるマツダ)の2番目の外国人社長、及びCEOに就任しました。社長就任当日の最初の記者会見で、マスコミの皆様に次のことを申し上げました。「最低でも5年間はマツダの社長をやります。5年が10年に延びれば更に喜ばしいことです」。
私が次の赴任地の希望として、広島に行きたいという意思をフォードの経営陣に強く示したのは、私が日本を好きであり、マツダと強い関わりがあるからであります。
私の日本に対する恋愛は1963年に溯ります。私は家族と日本旅行をし、東京、京都、札幌を訪問しました。当時、東京で最も高いビルは16階建てか20階建てだったと記憶しています。また、ホテルからながめた富士山の美しい姿は今でもよく覚えています。この日本訪問は父の仕事の関係で、家族が台湾に住んでいた3年間の2年目の出来事でした。3年間の台湾滞在中に私は、初めて日本や、その他の東洋の国を訪問する機会を得ました。
この経験は私に文化の違いに目を見開かせてくれるとともに、典型的な西洋の世界に育った人には決して経験出来ない素晴らしい経験をもたらしてくれました。この経験を通して、東洋人のお年寄りに対する尊敬、調和に重きを置く風土、個人生活、会社生活の両方に及ぶ価値観の違いに興味を持ちました。東洋に対するこの私の感情は、1989年にフォードの辞令でニュージーランドで仕事をしていた時、また、そのことによってマツダとの関係が出てきた時に再び呼び覚まされました。実際、私は過去、日本を何度も訪問し、マツダには既にたくさんの知人、友人を持っております。
こうしたことから、フォードからマツダで働く機会を与えられた時、私自身はマツダで仕事をすることに何のためらいもありませんでした。
私は父が台湾に転勤する前に家族に対して言ったことを今でも覚えています。それは、「私たちが馴染んできた習慣やライフスタイルとは全く違うものにたくさん出会うことになるだろう。」という内容でした。父はまた、「違いというのは悪いことではない、違いは単に違っているということだけなんだ、そして違いはいつも尊重しなければならない。このことをいつも覚えておきなさい」とも言っていました。こうした言葉と私自身の過去36年間の経験が、私をごく自然にマツダに結びつけ、その社長になることをもたらしたのだと思います。
1996年4月、ヘンリー・ウォレス氏がマツダの社長として就任した時、多くの人は嫌悪感を伴う反応をしました。新聞の見出しは次のような内容でした。
- フォードという名前の黒船来る。
- 何人が首切りされるか。
- マツダはフォードの一工場になるのか。
これは、ちょうど3年後に起きた日産−ルノーの提携に対する反応とは全く違うものであったことはたいへん興味深いと思います。しかし、その3年間、マツダの業績は着実に改善をしてきました。ただし、誤解がないように申し上げますが、まだまだやらなければならないことが、数多く残っています。負債が依然として多すぎますし、バランス・シートも更に改善しなければ安心出来ません。そう申し上げました上で改善点を二点紹介させて頂きます。過去5年間に売上高・損益分岐点は45%低減しました。生産台数・損益分岐点は30%低減しました。
1998年3月期には親会社単独決算では過去7年間で最高の利益を計上しました。また、昨年11月に公表した当社の中間決算では単独決算、連結決算ともに1991年以来最高の利益を計上しました。この3月末で終了した通年の決算報告については現在作業中であり、数週間で発表いたします。もし、我々が予想通り、連結決算で320億円の当期利益を達成すれば、1985年以来最高の連結当期利益となります。方向として、好ましい、正しい方向に向かっていると思います。
記者の方からインタビューを受ける時、マツダの改善に最も寄与した要素は何かということをよく聞かれます。私の答えは極めて単純です。多くの方はこれまでに私が次のように言ったことをお聴きになったことがあると思います。つまり、基本(ファンダメンタルズ)に焦点を当て、ただひたすら一生懸命働くこと。という答えであります。秘密の公式はどこにも存在しません。しかし、その一部として、数値目標を掲げることに重きを置いていることが上げられます。数値目標を掲げるやり方は日本企業には馴染まないと言う人もいますが、私はそうは思いません。
10年前、マツダの生産技術者が、サイクル・タイムを10分の1削減することについて、あるいは不良品を10分の1に削減することについて、また、その達成状況を絶え間なく測定することについて話してくれました。もし目標に到達しなければ根本的な原因が分析され、対策がとられました。私は、このことが、日本の自動車業界を世界で卓越した存在にまで押し上げた一つの理由ではないかと信じています。製造部門では、目標に対してこれだけ厳密に行ってきたのですから、なぜ、このことをビジネスの他の分野には適用出来ないのかと考える訳です。
そして、そのことを実行しただけに過ぎません。奇策ではなく、ただビジネス運営の基本を行ったに過ぎません。例えば、関連会社、子会社の事業計画や予算作成において、利益、キャッシュフロー、売上高利益率、総資産利益率等、測定可能な明確な目標を設けました。また、借入れや投資に対する承認権限を明確にすることを含む内部統制規定を設定しました。いずれも基本的なことと考えています。
当社の改善を東洋と西洋の国際的統合の良い事例としてとらえる方がいらっしゃいます。私はこれを私たちのデザイン・フィロソフィーの中のことばで表現したいと思います。「コントラスト・イン・ハーモニー」
対比の中の調和です。実際、これまでの当社の成功の栄誉は、24000人の従業員一人一人が受けるべきものです。彼らは、会社を良くしようという情熱を私と分かち合っています。
今後の発展の土台はいくつかの基本的なビジネス上の必須課題に焦点を当てた取り組みにより築き上げて行きます。本日、その内3つについて触れておきます。
- まず、人の成功を達成します。
私が社長に就任して初めて従業員に対してスピーチをした時、「人の成功」の重要性について触れました。今、私たちはすべての従業員が、その能力を最大限発揮できる環境を作ろうとしています。既に人事制度に変更を加えておりますが、正直に申し上げれば、まだこのことには着手したばかりです。社員の個人としての業績に対する貢献度をもっと明確に評価し、責任を負える能力に応じて報いることが出来るようにするにはもっと多くの変革が必要です。
また、私たちはよりよい研修制度を導入し、若い社員に働き甲斐を提供したいと思います。私は若い社員と定期的に懇談会を開いています。このことは私が世界各国で何年も実施していることです。
先日、私は入社2年目の社員16人と1時間半話しをしました。私どもの管理職は、当社が非常に急速に変化しているとということを申し上げるかもしれませんが、これらの若い社員は「変化のペースはゆるやか過ぎる」と言っていました。けれども、このことには決して驚きません。日本に来る前、世界各国で語り合ったフォードの若い社員も同じように言っておりました。
マツダは21世紀の要求に応えられるような新しい人事制度の改革を加速することを重要な課題の一つととらえています。なぜなら、私は社員こそ、企業にとって最も重要な資産であると考えているからです。
- 2番目は当社の企業イメージとブランドイメージの構築に焦点を当てることです。
企業イメージを示す一つの指標として週刊ダイヤモンドの定期調査があります。過去2年間と比べて、昨年の調査で当社は全体の企業イメージで大幅な改善をいたしました。また、「企業改革度」という項目では非常に良い評価でした。
メディアの方も、過去2年間、当社と当社の商品に対して極めて好意的に見ていらっしゃると思います。これは、私たちがコミュニケーションを増やし、信頼を得ようと一生懸命活動してきた結果であります。(ただし、私は時々、皆様のマツダの記事を編集することをお助けしたいと思う時があることを認めなければなりません。)ここで、ブランドイメージとそれについて私たちが着手したことについて少しお話ししたいと思います。このことは2年前に、ブランドマークの変更から始まりました。マークは、現在、当社の全ての商品に装着されています。
現在、私どもはステップ2として全ての商品を世界共通の一つのブランド戦略のもとに打ち出していくことで合意を得ています。これは、当社のような規模の企業にとって全ての市場で首尾一貫した当社の戦略を実行することが重要だからです。当社は世界の各地域で違う戦略を展開できる程大きくはありません。
第3のステップはブランドマネジメントを当社の組織全体で実行することです。このことはデザイン、開発、製造、販売、サービスと全業務領域をお客様の視点で遂行することが狙いです。これを推進するのは、私たちが「ブランドDNA」と呼んでいるものです。ブランドDNAは「センスの良い」、「創意に富む」、「はつらつとした」と言い、言葉で表現される「人格」と「際立つデザイン」、「抜群の機能性」、「反応の優れたハンドリングと性能」という言葉で表される「商品特性」によって構成されます。
単純に言えば、当社の商品や、サービスを通してこうしたブランドDNAをお届けし、そのことにより、マツダに対する満足とロイヤリティにさながるお客様との「結びつき」を実現することです。ブランドDNAは新型プレマシーや今後の新商品だけではなく、広報活動の中にも織り込んでいく予定です。
ブランド展開、ブランドマネジメントが成功すれば効果は絶大です。
- 3番目はフォードとの関係を更に強化し構築することです。
マツダとフォードの資本関係は20年近く前に始まりました。また、ビジネス上の実際の提携関係は28年前に始まっています。多くの方から、「いつフォードはマツダへの出資比率を変更するのか」、という質問を受けます。
私の答えは一貫しています。つまり「フォードに聞いて下さい」というものです。しかし、私はいつも次のように付け加えることにしています。マツダの経営陣は出資比率に関係なく仕事をしています。フォードは世界で2番目に大きい自動車メーカーであり、このパートナーとの関係は、当然、最大限活用いたします。フォードにとってもそれは同じことです。
2つの企業は、それぞれのアイデンティティが別々でユニークなものとして存在することを目指すとともに、戦略的提携を更に強化することに日々努力しております。このパートナーシップは、両社がより高い水準の競争力を構築することを目指して過去28年間進めてまいりました。両社の関係が、将来もこれまで同様に成功することを確信しております。
1日1億円の赤字が出ていた94年、95年の当時のように、近年、マツダは厳しい問題に直面してきました。私たちが今後取り組まなければならない課題について、決して甘くは見ていません。問題は楽にはなりません。しかし、私たちは、向かうべき方向、及び、目標達成のためのはっきりしたビジョンを持っています。
私は、自信を持って、当社は更に成功を収めることが出来ると申し上げたいと思います。
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